【2023年度版】障がい者施設の消防用設備点検や消防訓練の重要性とポイントを解説

皆さんこんにちは。

千葉県千葉市を拠点に消防用設備の点検・保守、工事を手掛ける有限会社新田防災です。


前回のコラムhttps://nittabousai.co.jp/blog/fire-laws/151708

では、社会福祉施設における消防用設備点検のポイントをご紹介しました。災害時の避難に支援が必要な災害弱者(要配慮者)が利用する施設では、他の施設以上に点検を徹底するとともに、消防訓練もしっかりと行わなければなりません。


そして、さまざまな施設の中でも、特に配慮が必要なものの1つが「障がい者施設」です。今回は、障がい者施設の消防用設備点検について詳しく解説します。




■障がい者支援施設の種類



障がい者支援施設とは、障がい者の日常生活や社会生活を支援するためのサービスを提供する施設です。何らかの障がいにより、生活や就業において支援を必要とする方を利用対象者としています。


一口に障がいといっても、知的障がいや精神障がい、身体障がいなどさまざまな種類があります。加えて、障がいの程度や必要とする支援の内容も千差万別です。そのため、障がい者施設も目的別に細かく分類されています。


分類の方法自体もいくつかあり、たとえば「入所型」と「通所型」で分ける考え方があります。また、障がい者総合支援法に基づき18歳以上の方を対象とする施設と、児童福祉法に基づき18歳未満の方を対象とする施設に分けることも可能です。


さらにサービス内容に注目すると、社会生活を営むために必要なリハビリ・訓練・治療などを受けられる「障がい者更生施設」、就業が困難な方を支援し就業する意欲や技術を身につけてもらう「障がい者授産施設」、常時介護が必要な方をサポートする「生活施設」、周辺地域でデイケアやレクリエーションを行う「地域利用施設」などがあります。


なお、障がい者施設と高齢者施設はどちらも社会福祉施設ですが、根本的な理念が異なります。高齢者施設は、介護を必要とする高齢者の自立した生活を支援するサービスですが、障がい者支援施設は日常生活だけでなく社会参加も視野に入れている施設なのです。そのため原則として、障がい者支援施設を利用する場合は、本人および家族が各自治体に申請します。




■障がい者施設で実施すべき防火対策



障がい者施設はその他の社会福祉施設と同様、多数の災害弱者が利用しています。知的障がい、精神障がい、身体障がい、いずれの障がいを持つ方でも避難は困難です。施設の運営者は、火災発生時の被害を最小限に抑え、迅速な避難ができるよう対策を講じなければなりません。そこでまずは、障がい者施設で実施すべき防火対策を確認しておきましょう。



・防火管理者の選任



一定の条件を満たす施設では、「防火管理者」の選任義務があります。防火管理者は、簡単にいうと防火管理業務の責任者のことです。防火管理者の業務としては、消防計画の作成や消防訓練の実施、消防用設備や避難設備の点検・維持管理などがあります。


専任が必要かどうかは、施設によって異なります。一例としては、避難が困難な障がい者を主として入所させる障がい者支援施設だと、収容人員10名以上の場合に選任が必要です(収容人員は従業員数と要保護者数の合計)。選任義務がある場合は、「防火管理者選任(解任)届出書」および「消防計画作成(変更)届出書」の届出を行ってください。



・防炎規制



障がい者施設は「防炎防火対象物」に該当し、施設で使用するカーテンやじゅうたんなどの防炎対象品は、防炎処理を施したものを使用した上で防炎表示をする必要があります。これらの備品は上から垂れ下がっているため、もし着火するとその火が天井まで駆け上がり、火勢が急速に拡大するおそれがあるからです。


その他の備品でも、寝具や衣類といった繊維製品には防炎性能の優れたものがあり、火災予防に効果を発揮します。施設の備品を防炎製品に更新すると、火災が拡大しにくい環境を作るのです。


なお、次項で解説する指導監査では、防炎対象品に適切なものが使用されているかどうかも監査指導項目の1つとなっています。監査をクリアする意味でも、該当箇所には必ず防炎処理を施した製品を使用しましょう。




■障がい者施設の指導監査では、消防点検が必須項目になっています!



障がい者施設には、運営が適切に行われているかどうかを確認するため、自治体による指導監査が時々入ります。監査には大きく分けて、原則として1年に1回行われる「一般監査」と、重大な問題があった施設などを対象に不定期で行われる「特別監査」があります。


監査は「指導調書」に基づいて実施されますが、実は消防関連の管理体制もチェック項目の1つです。具体的には、消防用設備が適切に設置されているか、それらの点検が定期的に行われているか、消火訓練や避難訓練が適切に実施されているかといったことをチェックされます。これらは前年度または当該年度に、消防署の立入検査を受けている場合は省略できます。


問題は、この監査で不備を指摘され改善命令等にも従わないと、事業の許可を取り消されてしまう可能性があるということです。事業の継続という観点でも、利用者の安全という観点でも、消防用設備点検や消防訓練は適切に実施する必要があります。




■消防用設備点検だけでなく、自衛消防訓練も必要です!



前述の通り、障がい者施設の指導監査においては、消防用設備点検だけでなく消防訓練もチェック項目に入っています。ただ設備を整えるだけでなく、いざという時に迅速な避難や設備の使用ができるよう、定期的に訓練しておかなければならないのです。自衛消防訓練の基本的な実施手順を確認しておきましょう。



・自衛消防訓練の計画



まずは防火管理者を中心に、自衛消防訓練の計画を立てます。年2回以上の訓練が必要なので、年間の事業計画作成時などに、消防訓練の実施時期・目的・内容などを決めておくといいでしょう。毎回同じ内容の訓練を行うのではなく、新たなスタッフや施設利用者が入ってくる4月には基本的な訓練を実施し、徐々に内容を増やしていくなどの工夫が必要です。



・事前検討



訓練は何となく行うのではなく、実施前に目的を明確にしておくことが大切です。関係する職員で打ち合わせや情報共有を行い、訓練が効果的なものになるよう努めてください。



・訓練の実施



訓練当日は、各スタッフが事前の計画通りに動き、通報・避難誘導・初期消火などの訓練を行います。特に注意が必要なのは、実際に施設利用者を避難させる場合です。怪我やトラブルを防止するためにも、避難経路にサポートする職員を配置するなど配慮しましょう。


また、自動火災報知設備などを使用する場合は、消防署やセキュリティ業者へ自動的に通報されてしまうのを防ぐために、連動スイッチなどを切っておく必要があります。不明点がある時は、消防署や消防用設備業者に事前に確認してください。



・訓練結果の活用



訓練が終わった後は結果を検証し、よかった点や改善すべき点などを見つけ出します。検証の内容は次回以降の訓練に反映させ、訓練をより実りあるものにしていきましょう。




■施設職員の意識と訓練が最も大切



障がい者施設における防火活動において最も重要なのが、施設職員の意識と訓練です。施設利用者の大半は災害弱者であり、自力での迅速な避難が難しいため、被害を最小限に食い止められるかどうかは施設職員の動きにかかっています。そこで、消防訓練の計画を立てる時や実際に訓練をする時は、以下のポイントを意識しておきましょう。



・施設の特性を把握する



障がい者施設が抱えるリスクは、施設利用者の障がいの程度や年齢層によって異なります。まずは何よりも、自己施設にどのくらいの危険や注意点があるのかを把握し、優先事項を考慮した上で消防計画を立てることが大切です。



・組織的な自衛消防活動を意識する



火災発生時に発見・通報・初期消火・避難誘導といった動きをスムーズに行うためには、組織的な活動が必要不可欠です。防火管理者をはじめとする責任者には、強いリーダーシップと適切な判断力が求められます。自衛消防訓練では、責任者の指示のもとでどのくらい組織だった動きができるかを確認しましょう。責任者がいない状況を考慮した訓練も重要です。



・消防用設備の活用方法を知る



消防用設備は、いざという時に活用できなければ意味がありません。障がい者施設の消防用設備は、建物の構造や大きさ、利用者の障がいの程度、宿泊の有無などによって異なります。自己施設にどのような消防用設備が設置されているかを確認し、各自が使用方法を覚えましょう。



・火災発見時の行動を理解する



火災発生時は、まず「どこで何が燃えているのか」を確認することが重要です。自動火災報知設備が設置されているなら、作動した感知器の位置を受信機で確認後に現場へ向かいます。この際、消火器やマスターキーなど、必要なものを携行してください。火災を確認したら、大きな声や音で周囲に火災の発生を知らせ、自力で避難できる人には避難を促しましょう。



・通報の手順を理解する



自動火災報知設備(自火報)や特定小規模施設用自動火災報知設備と連動している火災通報設備が設置されている場合は、火災発生時に自動的に119番通報されます。そのため、職員の数が少なければ、初期消火や避難を優先させることが可能です。


自火報などと連動していない火災通報装置が設置されている場合は、火災を発見したら「火災通報ボタン」を押します。そもそも火災通報装置がない施設では、迅速に119番通報しましょう。さらに放送設備などを活用し、火災の発生箇所や避難開始を周知します。各職員は安全な避難経路を判断し、利用者の避難を開始させてください。



・初期消火の方法を身につける



初期消火の担当者は、消火器などの消火設備を活用して消火を試みます。消火不能と判断される場合は、扉を閉めて煙の拡散を防止しましょう。



・避難誘導を行う



利用者の避難誘導は、火元に近い場所から実施するのが原則です。この際、防火戸や防火シャッター、部屋の扉などを閉めながら避難してください。また、逃げ遅れた人がいないかどうかを確認するために、トイレや死角になりやすい場所などをチェックしつつ避難しましょう。



・職員数が少ない時の行動を理解する



夜間など、職員が少なく効率的に動けない状況を想定し、消防計画を立てることも大切です。避難誘導は原則として、地上へ通じる避難階から屋外へ逃がします。しかし、職員が少ない状況では、まず火災発生エリアの利用者を安全な場所(防火戸の外やバルコニーなど)へ一時的に待機させてください。その上で、携帯電話などで再度119番通報を行い、待機場所を伝えましょう。



・応急救護技術を習得する



火災発生時には火傷をしたり、煙や有毒ガスを吸い込んだり、避難途中に負傷したりすることがあります。このような事態に備えた応急救護技術の習得は、障がい者施設の職員にとって必須です。全員が自信を持って応急手当をできるよう、定期的に応急救護訓練を実施しましょう。消防署の救命講習もぜひ受講してください。


なお、消防訓練は自主的に行えばいいわけではなく、消防署に届け出た上で行う必要があります。詳しくは以下の記事をご覧ください。


消防訓練は消防署への届け出が必須です!訓練の内容や実施時の注意点を紹介

https://nittabousai.co.jp/blog/column/142170




■消防用設備点検は時間を要します! 早めに計画を立てましょう



障がい者施設において消防用設備点検や消防訓練を実施する際、ある意味では最も気をつけなければならないのが、「点検には時間がかかる」ということです。消防用設備点検は専門業者に依頼するのが基本ですが、スケジュールの調整の関係上、「明日来てください」と言っても応じてもらえることはほとんどありません。


つまり、そろそろ指導監査の時期なのに業者への相談が遅れると、点検をしていない状態で監査を受けなければならなくなる可能性もあるのです。また、点検で不備が発見された場合は、その箇所を是正する必要もありますから、さらに時間がかかってしまいます。


したがって、少なくとも点検希望日の1ヶ月前には、専門業者に相談することが重要です。利用者やスタッフの安全確保は、障がい者施設運営者の責務ですから、消防用設備点検や消防訓練は計画的に行いましょう。



千葉県千葉市の新田防災では、大小問わず建物の消防用設備の点検・保守を行っております。障がい者施設での施工実績も豊富にあり、管理者様・利用者様の目線でアドバイスができ、施設の用途や規模に応じた正確な施工が可能です。さらに、各種申請の代行もお任せいただけます。消防用設備の設置・追加・点検が必要な時は、お気軽に新田防災までご相談ください。